<全米オープン2014コラム>キャリア初の快挙も次のモチベーションへ。挑戦の日々は続く。 | 伊達公子 公式サイト

COLUMN

2014.09.15

<全米オープン2014コラム>キャリア初の快挙も次のモチベーションへ。挑戦の日々は続く。

クルム伊達公子(全米オープン2014)

【シングルス】
○ビーナス・ウィリアムズ 2-6,6-3,6-3 クルム伊達●

ビーナスが、逃げた――。
誤解を恐れずに言ってしまうと、そう思った試合である。
 
グランドスラム初戦でシード選手と当たる、クルム伊達の“引きの強さ”は、もはや恒例となりつつある。とは言え、全米オープンにおけるビーナス・ウィリアムズは、単なる“第19シード”という枠には収まらない存在だ。2001年の全米で妹のセレナと戦った“ウィリアムズ・ファイナル”は、アメリカでは同大会の女子決勝史上最高の視聴者数を誇っている。この過去15年ほどのアメリカ女子テニスの歴史とは、ウィリアムズ姉妹の戦績だと言ってよい。そのビーナスが、大会最年長選手のクルム伊達と対戦するというのだ。当然のように、戦いの舞台にはアーサーアッシュ・スタジアムが用意された。

この、地上最大のテニス専用スタジアムが完成したのは、1997年のことである。クルム伊達が最初の現役を退いたのは、1996年。彼女にとってのアーサーアッシュ・スタジアムの思い出とは、最上階のテレビブースから、解説者として見下ろした時のものだ。
「上から見ると、コートが本当に小さく見えるんです。夕暮れ時になると、マンハッタンの街並みがきれいで……」、
そのような情景の記憶が残るセンターコートに、彼女は初めて、選手として足を踏み入れた。

強い風が、すり鉢状のスタジアムを巻くように吹きぬける中、クルム伊達は身長で22センチ上回るビーナスと、大会初日のセンターコートで相対した。試合前、センターコートで練習をしたクルム伊達は「他のコートよりも速いな」との印象を受ける。速いコートは、クルム伊達の土俵だ。だがビーナスも、長く女子の史上最速サーブ記録を保持した、高速コートの申し子である。速い展開での打ち合いは、相手も望むところだろう。

クルム伊達公子(全米オープン2014)

試合開始から僅か3ゲーム目にして、そのビーナスのスピードを、クルム伊達が捕えた。クルム伊達の伝家の宝刀・ライジングショットのリターンが、ビーナスのコートに次々刺さる。ビーナスが、深いリターンを警戒し下がると見るや、今度はドロップショットをネット際に落とした。この第3ゲームを皮切りに、クルム伊達はビーナスのサーブをことごとく破っていく。第1セットは2−6。地元のビーナスへの後押しと、驚異の43歳クルム伊達への称賛が絡まり合い、スタジアムは大歓声に包まれた。




クルム伊達公子(全米オープン2014)

かくして、クルム伊達が完全に主導権を握ったかに思われた、第1セット。しかし当の本人は「自分のテニスで出来たかというと、そこまででは無かった」と感じていたという。その違和感の正体は、ビーナスのストロークが思ったほど飛んでこないことにあった。
その傾向は、第2セットに入るとより顕著になる。ビーナスは明らかに、クルム伊達との打ち合いを嫌がった。攻撃テニスを身上とし、パワーテニスの旗手と言われたビーナスが、緩い山なりのボールを多用する。スタジアムを巻く風が、このボールの処理を一層困難なものにした。カウンターのリズムを崩されたクルム伊達は、得意の展開に持ち込めない。対してアーサーアッシュを知り尽くしたビーナスは、試合が進むにつれサーブの精度が高まっていく。第2セットは0−4、第3セットは0−5と、共に序盤でビーナスにリードを許した。
だが、クルム伊達は、ビーナスの“ペースダウン作戦”にも徐々に対応していく。「1ゲーム取れば、何かが変わる可能性がある」。そう信じて彼女は、いずれのセットもリスク覚悟の反撃に出る。その逆襲に、百戦錬磨のビーナスもたじろいだ。第2セット、さらに第3セットも劣勢から3ゲーム連取し、逆転の緊迫感を漂わせた。
最終的には、どちらのセットも、相手を捕えるには僅かに至らなかった。だが、特に第3セットはもう1ゲーム、あるいはマッチポイント1本手前のボレーを決めていれば、何かが変わっていた展開だった。何よりも、アーサーアッシュ・スタジアムをホームとするビーナスを、消極的な勝利を拾うまでに追い詰めたのだ。
センターコートにクルム伊達が刻んだのは、単なる善戦の枠には収まらない、深みある戦いの足跡である。

【ダブルス】
○クルム伊達/バルボラ・ストリコバ 7-5 4-6 6-3 タチシビリ/ファルコニ
○クルム伊達/バルボラ・ストリコバ 6-3 6-2 ・詠然/・皓晴
○クルム伊達/バルボラ・ストリコバ 7-6 (4) 6-4 謝淑薇/彭帥
○クルム伊達/バルボラ・ストリコバ 6-3 4-6 6-3 フラバコワ/鄭潔
●クルム伊達/バルボラ・ストリコバ 7-5 6-3 マカロワ/ベスニナ

クルム伊達公子(全米オープン2014)

今年3月に初めてストリコバとダブルスを組むことになった時、クルム伊達には、多少の不安があったという。ストリコバはクルム伊達と、身長がほぼ同じ。多彩なショットの持ち主でボレーも上手く、言ってみれば似たタイプの選手である。これまで高さやパワーなど、自分に足りない要素を補うパートナーと組むことが多かっただけに、似た者同士のペアの化学反応は未知数だった。
実際にはふたを開けてみれば、組んで早々に絶妙なコンビネーションを発揮し、複数の強豪ペアを撃破する。グランドスラムでは不運なドローもあり結果に恵まれなかったが、「自分たちは、もっとできるはず」との想いを抱いて、今大会に入っていた。

もっともドローという意味では、今回も厳しかった。3回戦で戦った謝淑薇/彭帥は、昨年の年間チャンピオンペア。しかしこの2人の特徴や長所を、クルム伊達たちは熟知もしている。するすると前に出てくる謝淑薇の頭上をロブで狙い、彭帥のポーチを読み逆をつく。第1セットのセットポイントでは、彭帥の動きを読み切ったクルム伊達が、ダウンザラインに会心のウイナーを叩きこんだ。このセット先取で主導権を掌握すると、第2セットでは、疲れからか動きに精彩を欠き始めた彭帥を狙い、第2シード相手に快勝を収めた。

4回戦のフラバコワ/鄭潔戦では、相手が自分たちを熟知していることを考慮した上で、あえて正攻法で挑む。クルム伊達が相手の嫌がるところを巧みにつき、甘くなった返球をストリコバがフィニッシュする―――自分たちの得意のパターンを何度も作り、ダブルス巧者の相手を正面から押し切った。

準決勝の相手は、最終的に大会を制したマカロワ/ベスニナ組。立ち上がりは、4人の中で最高のキレを見せたクルム伊達が、リターン、ボレー、そしてロブを次々に決めて5−2とリード。セットポイントも2本つかんだ。しかしここを逃すと、長くパートナーを組むロシアペアが、一気に流れをつかみに掛かる。相手に狙われミスを重ねたストリコバは、苛立ちの色を濃くし自ら崩れてもいった。「ロブやダウンザラインを打たなくてはと思っているのに、吸い込まれるようにクロスに打たされた」とクルム伊達が振り返るほどに、第2セットは相手の巧さがハマった試合でもあった。

試合後、コーチたちは「素晴らしい大会だった」とベスト4をねぎらったが、クルム伊達とストリコバは、2人してうつむきながら、首をふるばかりだったと言う。「やっていることは間違いではなかった。相手に流れを持って行かれる前に、突破口を見つけられれば先が見えてくる」。そう感じる敗戦だったからだ。

そんな悔いを見せながらも、ダブルスでのグランドスラムベスト4は、実はクルム伊達にとってキャリア初の快挙である。

「最初のキャリアではダブルスはあまりやらなかったし、ランキングが30番台に居たことに、自分でもびっくりしたくらい。それを思えば、今はダブルスとしても楽しめているし、シングルスにも生かしたい」。

敗戦を悔い、課題を見つけ、それを次へのモチベーションにする――。
挑戦の日々を連ねる戦いの旅は、こうしてまた、続いていく。

取材・文:テニスナビ
写真:佐藤ひろし

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