<全仏オープン2014コラム>全仏で再認識したテニスの難しさ ”昔の10倍は考えている” | 伊達公子 公式サイト

COLUMN

2014.06.09

<全仏オープン2014コラム>全仏で再認識したテニスの難しさ ”昔の10倍は考えている”

クルム伊達が常々嘆くドロー運の無さは、最も苦手とするローランギャロスで、ことさら際立つ傾向がある。2010年以降の5年間、ここ全仏オープンでは全て、初戦でシード選手と対戦。しかもその相手も、当時の第1シードのキャロライン・ウォズニアッキや、全仏で優勝経験を持つフランチェスカ・スキアボーネ、準優勝者のサマンサ・ストーサーなのだから念が入っている。今大会も、初戦で当たったのが第24シードのアナスタシア・パブリュチェンコワ。苦笑いと共に吐き出す「がっかりするのも、とっくの昔に諦めました」の言葉も、そのようなクルム伊達の全仏オープン史を考えれば納得だ。

ただ口ではそう言いながらも、コートに立てば、手持ちのカードを最大限に生かし勝利を目指すのが、クルム伊達という選手。苦手なクレーでも、「リターンのポジションや球種、攻め方など、全て試して試合に入っていた」と、自分のテニスを高めるためのテーマを持って挑んでいた。

試合の日は、朝から時折雨がこぼれ、気温も上がらないというクルム伊達には厳しい条件。その影響もあったか、立ち上がりはダブルフォルトも多く飛び出し、なかなかリズムをつかめない。身長で14センチ、体重で19キロ勝るパブリュチェンコワのパワーに押しこまれ、第1セットは、3-6で奪われた。

だがここから、クルム伊達の逆襲が始まる。

「キミコはボールの打ち方が独特で、リズムがつかみにくい。今日は気候も変化しやすくミスが増え、するとキミコは、強気に攻めてきた」

快調に見えていたパブリュチェンコワにも、移り気な気候への不快感と、クルム伊達へのやり難さが募っていた。それがダブルフォルトと言う形で噴出した時、試合の流れは反転する。リターンからプレッシャーを掛けるクルム伊達の圧力に屈するように、ミスを繰り返す第24シード。対するクルム伊達はサーブに安定感が増し、難なくゲームを重ねていく。第2セットは、怒涛の6ゲーム連取。僅か22分で、驚異の43歳がセットを奪い去った。

このままクルム伊達の勢いと豊富な経験が、相手を飲みこむか――。

そう思われた第3セットだが、最初のゲームを苦しみながらキープしたことで、パブリュチェンコワが立ち直る。クルム伊達も硬軟織り交ぜた攻めで相手を崩すが、サーブの精度が上がったパワープレーヤーからブレークを奪うのは容易ではない。

今度は相手に5ゲーム連取を許し、後がなくなるクルム伊達。

しかしここから、再び見せ場が訪れた。まずは自分のゲームをキープすると、続くゲームをラブゲームでブレーク。2−5からの第8ゲームでは、マッチポイントに追い詰められるたびに、激しい息を吐いてコートを駆け、滑る足元と弾むボールに苦しみながらも黄色い球に食らいつき、何度も22歳の相手に天を仰がせた。凌いだマッチポイントは4本、重ねたデュースは5回。観客たちを引き込み歓声を呼び起こした、スリリングな1時間36分であった。

「もうちょっと運があれば、相手の弱いところを引き出すプレーができるところまで行った。最後まで追い込めなかったところが、多少残念」

悔しさは、当然ある。だが、ぶっつけ本番に近い苦手のクレーだということを思えば、できることはやったというある種の達成感もあるだろう。

「これまではクレーでケガをしてきたので、今回は芝(の大会)のことを考えても、ケガをしないことが最大のテーマだった。まずは、元気でいられているのが一番大きい」

大好きな青芝のコートに向け、充実感が笑みとなってこぼれおちた。

【シングルス】
1回戦 クルム伊達 3-6 6-0 2-6 アナスタシア・パブリュチェンコワ

ストリコバとダブルスを組むのは、今年3月のBNPパリバオープン、そしてソニーオープンに次ぐ3大会目。しかし、以前から練習はよくやっていたこの2人、組んだ直後から抜群の相性とコンビネーションを発揮していた。そんな2人に、今大会の初戦でいきなりソニーオープンのリベンジの機会が訪れたのも、運命の巡り合わせだろう。

先のソニーオープンでは、クルム伊達もストリコバも、連戦による疲労困憊の中での対戦だった。さらにメディナガリゲスとシュベドワは、硬軟織り交ぜた攻撃でクルム伊達たちの連携を寸断してきた。その敗戦の経験をふまえ、クルム伊達たちは「お互いに色々と考え、やるべきことを全部準備した上でコートに入っていた」という。中野陽夫コーチも「試合前に、2人で随分と話しこんでいた」と、リベンジに掛ける2人の情熱を感じていた。

迎えた試合は、第1セットは両チームともブレークを繰り返しながら、5-4からクルム伊達組が相手のサーブをブレークして抜けだす。

第2セットも序盤は競った展開ながら、終盤に4ゲーム連取し勝利まで走り抜けた。クルム伊達が「私がバーバラ(ストリコバ)の好きな所は、大事なところで状況判断ができる点。何かを変えなくてはいけない所で思い切りが良かったり、勝負強さがあります」と相棒を評価すれば、ストリコバも「キミコはファイターだし、経験豊かで勝負強い」と全幅の信頼を寄せる。似た体格のオールラウンダーどうし、以心伝心で相手の動きが読めるようである。

2回戦は、ダブルス巧者の相手に第3セットまで互角の展開。第5ゲームでブレークのチャンスを迎えるが、そこを逃すと直後のゲームを奪われる。結局はこの2つのゲームが、試合の分岐点となった。

「チャンスをつかめたけれど、上手くかわされた」

「ちょっとの違いで、スコアが逆になっていたこともあったかもしれない。あのブレークポイントはチャンスだったけれど、その前にも、ポイントの取り方で結果が変わっていたかもしれない」

終わってみれば、勝敗を分けたのは僅か1つのブレークの差。幾つも細かいターニングポイントがあった試合を振り返り、クルム伊達はしみじみと「それがダブルスの難しさでもあり……難しいです」と言う。

テニスが難しい――ツアーで最も経験豊富で、自身のテニスをどこまでも突き詰めるクルム伊達からこそ、達する境地。

「自分の中での駆け引きというか…足し算引き算が難しい。難しさに迷って、思いこみすぎたり、パフォーマンスが落ちてしまっているのではと考えてしまったり……。常に何か考えています。昔の10倍は考えています!」

悩みを訴えるその言葉とは裏腹に、表情は明るかった。

【ダブルス】
1回戦 クルム伊達/バルボラ・ストリコバ 6-4 6-2 アナベル・メディナガリゲス/ヤロスラワ・シュウェドワ
2回戦 クルム伊達/バルボラ・ストリコバ 3-6 6-3 3-6 ルーシー・ハラデツカ/ミハエラ・クライチェク

取材・文:テニスナビ
写真:佐藤ひろし

CATEGORY

archive

  • Related News
  • Official Blog
  • Official facebook
  • Related News
  • Official Blog
  • Official facebook