<全豪オープン2014コラム>世界が注目した“27歳差決戦”。熱戦の末に敗れるも「テニスを楽しめる限りは続ける」 | 伊達公子 公式サイト

COLUMN

2014.01.27

<全豪オープン2014コラム>世界が注目した“27歳差決戦”。熱戦の末に敗れるも「テニスを楽しめる限りは続ける」

年齢について問われるのも答えるのも、そろそろうんざりしているだろう。日本のメディアの間でも、その手のテーマは既にやりつくした感もある。それでも、大会最年長のクルム伊達が初戦で対戦する相手が、16歳のベリンダ・ベンチッチともなれば、どうしても話題は“27歳の年齢差”に集中する。今大会のドローが出た瞬間から海外の記者たちも、この異色の顔合わせに色めき立った。

スロバキア人の記者がわざわざ日本人が並ぶエリアにやってきて、「これは興味深い一戦だね! 年齢差は……100歳くらい?」と、笑うに笑えないジョークを言ったりもする。

ベンチッチはスイス人だが、ルーツにあるのはスロバキアの血。彼女に期待を寄せるメディアやファンは、世界的に多い。何より彼女には、元世界1位のマルチナ・ヒンギスの母親が手塩にかけた“ヒンギス二世”としての名声がある。その未来の女王候補が、90年代に世界4位に上り詰めた伝説的選手と対戦するのだ。期待感が高まるのは、当然のことだった。

【誰もが「厳しい相手」と指摘した、16歳の“ヒンギス二世”】 
昨年の全仏とウィンブルドンジュニアを制したベンチッチは、9月以降は日本に長期滞在し、東レPPOやHPオープンにも出てポイントを荒稼ぎ。ランキングを一気に200位以内まで上げると、今大会では予選で第1シードもあっさりと退けて、難なく本戦に上がってきた。

そんな彼女の武器と言えば、天才と呼ばれたヒンギスを彷彿させる、ゲームメークの巧みさにある。さらにベンチッチは、ヒンギスの母親に最も厳しく指導されたのが「ボールを早いタイミングで捕えること」だと言った。そんな16歳のプレースタイルは、ライジングショットを最大の武器とするクルム伊達のテニスとどこか似通ったものがある。これまでクルム伊達は、彼女ならではの早い展開力や前後の揺さぶりで多くの大型選手を手玉にとってきたが、ベンチッチはそれらパワープレーヤーとは異なるタイプ。そしてクルム伊達本人も、ベンチッチへの警戒心は十二分に強めていた。

「これまでの試合だと、他の選手やコーチたちも『あの選手なら、キミコなら勝てるよ』とか『彼女はキミコのボールが苦手だろう』と言ってくれたのですが、今回は一切、そのような声は無かったです。みんなベンチッチが相手だと知ると『厳しい試合になる』と言っていました」

困難なチャレンジになることを覚悟した上で、クルム伊達は気温30度越えを記録する、メルボルンのコートに向かっていった。

【互いにベースラインから下がらぬスピーディな打ち合いと展開】 
クルム伊達がベンチッチのサービスゲームをブレークし3-0とリードした時、あるいはこのまま、ベテランのスピーディかつ知的なテニスが、初のグランドスラム本戦に挑む若い相手を飲みこむのではと思われた。全てのショットの質が高いベンチッチではあるが、最大の弱点はサービス、特にセカンドサービスだ。そしてクルム伊達は、相手のウィークポイントを絶対に逃さない。リターンでラリーの主導権を握り、スライスを深く打ち込んでいく。相手に得意のポイントで打たすことなく、逆にミスを誘っていった。

だが試合が進むにつれ、ベンチッチもクルム伊達のテニスに適応していく。ゲームカウント4-4から抜けだしたベンチッチが、第1セットをまずは手にした。

第2セットは、さらに両者ともにリスクを恐れずコート内に踏み込んで、ウイナーを狙うスリリングな展開となる。中でもクルム伊達の、コートを広く使った組み立てが冴えた。圧巻は、ベンチッチサーブの第6ゲーム。セカンドサーブを叩くと同時に前に出ると、フォアのボレー、フォアのリターンウイナー、さらにはフォアのボレーとウイナーを連発し、ラブゲームでブレークする。ゲームカウント5-4の場面でも、勝負所を見極めるクルム伊達の狙いがはまった。最後は鮮やかなバックの逆クロスを決めて、第2セットはクルム伊達。「カモン!」の気合いの声と共に、試合を五分に持ち込んだ。

試合の流れを掌握した時の、クルム伊達は強い。そして今、試合の流れはクルム伊達に傾いていた。だが、ケガのためオフシーズンに十分なトレーニングが積めなかった彼女は、筋力に一抹の不安を覚えていた。

「乗りきれなかった訳ではないが、相手の方がパワーがあった。中に入って打ち、オープンコートを作られてしまった」

試合後にクルム伊達は、そう振り返る。対するベンチッチは、若さに似つかわぬ老獪さで、セット序盤が勝負どころだと踏んでいた。最初のクルム伊達のゲームをブレークすると、次のゲームを苦しみながらもキープして勢いに乗った。クルム伊達も1-5から2ゲーム連取で追い上げるが、「最後の方はパワー不足を感じた」と述懐する。両者共にあらゆるバリエーションのショットを操り、前後左右のみならず上下の空間も存分に使った2時間の濃密な戦いは、最後は16歳に軍配が上がった。

「キミコは凄くボールを打つのが早く、対戦した他の選手と全く違うタイプ。そのプレーに慣れるのは大変だった」。

試合後のベンチッチは、クルム伊達と対戦した、ほとんどの選手と同じコメントを残している。だが実はベンチッチは、クルム伊達の攻略に関し、一定のヒントも持っていた。

「マルチナ(ヒンギス)に、試合前にアドバイスをもらったの。マルチナの方が、キミコのプレーは良く知っているから」

スイス出身の16歳は、そう言って笑顔を見せる。なんとベンチッチの参謀には、かのヒンギスが居たのだ。思えば、クルム伊達が1996年に第一のキャリアを終えた時、最後の対戦相手となったのが当時16歳のヒンギスだった。そのヒンギスの妹分とも言える16歳のベンチッチが今、43歳のクルム伊達と対戦しているとは、なんと数奇な巡り合わせだろう。人脈と対戦の歴史が連綿とつながり物語をつむぐ、テニスという競技の奥深さを感じない訳にはいかない。

そのような物語の主役であるクルム伊達へ関心は、敗戦にも関わらず高かった。試合後の会見室には4畳程の広さのインタビュールームが用意されたが、詰め掛けたメディアの数は、明らかにその部屋に収まるものではない。仕方なく大会側は、まずは海外メディアによる英語の会見を、その後に日本人による会見と言う“完全入れ替え制”を採用した。

その英語の会見では、「あと何年、プレーするのか?」という、いつもの問いが43歳に向けられる。

「50歳まで、できるのでは?」

そんな指摘を、笑顔で「まさか」と交わしながらも、クルム伊達はこう続けた。

「テニスが楽しいと感じられる限り、続けるわ。終わりの日はいつか来るけれど……それはもしかしたら、明日かもしれない。もしかしたら、今晩かもしれない!」 

「でももしかしたら、それは5年後かもしれないわ」

【シングルス結果】
クルム伊達公子 4-6 6-4 3-6 べリンダ・ベンチッチ

取材・文:テニスナビ
写真:佐藤ひろし

CATEGORY

archive

  • Related News
  • Official Blog
  • Official facebook
  • Related News
  • Official Blog
  • Official facebook