<全米オープン2013コラム>“プレーしていて楽しい”笑顔を残しニューヨークからアジアへ | 伊達公子 公式サイト

COLUMN

2013.09.10

<全米オープン2013コラム>“プレーしていて楽しい”笑顔を残しニューヨークからアジアへ

クルム伊達公子(全米オープン2013)早くも秋の陽気が漂いはじめた、8月最終日のニューヨーク。クルム伊達はポイントごとにパートナーと笑顔を交わし、夕日に汗を光らせながら、コートを縦横に駆けていた。

ミックスダブルスは、見ていて実に面白い。

女子同士なら完全に決まったであろうショットが、男子選手に拾われる。

かと思えば、女子が度胸満点のショットで男子を出し抜くこともある。女の打ち合いに男が首を突っ込むような野暮はせず、静観する。ところが、勝負どころになると紳士協定もどこへやら、容赦なく男子が女子を狙い撃つ。

真剣勝負の中にも見え隠れする、紳士淑女の精神とエンターテインメント性。イギリスの階級社会で栄えたテニスの風韻が、ミックスダブルスには息づいている。

クルム伊達のミックスダブルスが、見る者をそれ程にまで惹きつけるのは、彼女自身が試合を誰より楽しんでいるからかもしれない。試合中の表情が生き生きしている。シングルス等に比べれば、そこまで勝敗にこだわらなくてもいいという側面もあるだろう。ただ彼女が「楽しい」と言ったとき、そこにあるのは自身のプレーの研究と、テニスという競技への飽くなき探究心だ。

「ミックスの魅力は色々ありますが、展開がスピーディなので考えているヒマもなく、とにかくやるしか無いという面白みがあります。女子ダブルスだと、駆け引きによるプレッシャーも出てきますが、男子と組んでいるときの方が安心感がある。その安心感から、サービスからも思い切ったプレーができるので、そういう意味でも自分のプレーの質が上がりやすい。それに男子選手の動きを見ると、“もっと大胆な動きをしなくては”と気付かされたりと、学ぶことも多いんです」

男子選手の動きや球速に引っ張られるように、クルム伊達の動きも大胆さと躍動感を増す。

「そして何よりいいのは、楽しくできることですね。もちろん勝つに越したことはないし、パートナーも勝負にこだわっているけれど、プレーしていて楽しいです」
 
クルム伊達公子(全米オープン2013)プレーしていて、楽しい――。その思いは、ウィンブルドンに引き続き今回もクルム伊達の頼れる“相棒”となった、ダビド・マレーロも同じだろう。クルム伊達とマレーロは、共通の友人でありクルム伊達のダブルスパートナーでもあるアランチャ・パラサントンハの紹介で組むことになった。

「僕がミックスに出ると知った友人たちが、誰と組むんだ? と聞いてくるので、若い女の子だよって言ったんだ。それって誰? と聞かれたときにクルム伊達って言うと、みんな驚いていた」

“凄く良い人”だとクルム伊達が評するマレーロは、いたずらっぽく笑ってそう言った後、真面目な口調でこうも続けた。

「もちろん、キミコが42歳だというのは知っていた。でもそんな風には全く見えないし、身体が凄くフィットしていて動きも素晴らしい。彼女とプレーするのは楽しいんだ。いつも笑顔だし、僕をサポートしてくれる。そして彼女はピンチのときに、どんなプレーをするべきか知っているんだ」

実は、ウィンブルドンでクルム伊達と共に手にした勝利は、マレーロにとってもミックスダブルス初勝利であった。その喜びが余程大きかったのだろう、マレーロはウィンブルドンが終るや否や「全米でも組もう」と提案し、二人のペア再結成が実現した。そして今大会でも、初戦で鄭賽賽/ルーカス・ドロウヒー組から大接戦の末に逆転勝利。

2回戦では、試合前日のマレーロの捻挫というアクシデントに見まわれながらも、第5シードのアナベル・メディナ・ガリゲス/ブルーノ・ソアレス組と好ゲームを繰り広げた。
 
ミックスの2回戦敗退で全日程を終えたものの、大会6日まで全米特有の高揚感と喧騒を満喫したクルム伊達。

「ミックスダブルスに出ていば、こうやってグランドスラムを少しでも長く楽しめるのも良いですね」

大会最年長者はそう言って、心から楽しそうに笑った。

【ミックスダブルスの結果】
1回戦:クルム伊達/ダビド・マレーロ 2-6 6-0 10-4 鄭賽賽/ルーカス・ドロウヒー
2回戦:クルム伊達/ダビド・マレーロ 3-6 5-7 アナベル・メディナ・ガリゲス/ブルーノ・ソアレス

このようにミックスの頃には笑顔も見せたクルム伊達だが、ニューヨーク入りした当初は、右アキレス腱の痛みに苦しむ日々を送っていた。初戦には何とか間に合ったものの、準備不足は否めない。久々のシングルスとなった対パウラ・オルマエチェア戦の第1セットでは、試合勘やフィーリングの低下がクルム伊達から本来の動きを奪っていた。

それでも、実戦の中で徐々に相手のプレーや環境に適応できるのが、クルム伊達の強さの精髄。190キロの相手のサービスを鋭く返し、第2セットはストローク戦で優位に立った。だが最後は「今日は珍しく、フィーリングが無かった」というバックのストロークがネットに掛かり試合に幕。今季はここまで体調が良かっただけに、本来の力を発揮できないもどかしさが後に残った。

【シングルス結果】
クルム伊達 3-6 6-7(7) パウラ・オルマエチェア

不完全燃焼なままにシングルスを終えざるをえなかった彼女にとって、その後ダブルスで実戦を経験できたのは、決して小さくない意味を持ったろう。

初戦で対戦した相手は、今大会の第5シードにして、今年1月の全豪オープンで勝っているルーシー・ハラデツカ/アンドレア・フラバーチコバ組。相手にとっては是が非でも負けられない戦いであり、クルム伊達たちにしてみても、リベンジに燃える相手の出方は想定内。

「お互いの手の内が分かっている中で様々なシチュエーションを考え、試合前からアランチャとも作戦を話し合って入った」

クルム伊達は、試合後にそう明かした。

パートナーとの連携、相手2選手との駆け引き、そして互いの戦略の読み合い――4人の選手の思考が交錯するダブルスの醍醐味は、立ち上がりの数ゲームに凝縮されていた。結果から言えば、競りに競った最初の2ゲームを取られたことで主導権を握られたが、0-6、3-6というスコアは、濃密な頭脳戦の真実を反映しているとは、とても言えない。ダブルスで見えかけた光明をミックスダブルスにつなげ、最終的にクルム伊達は、笑顔を残しニューヨークを後にした。
 
この全米オープンを最後に今季の四大大会は全て終わり、テニス界の主戦場は、日本を含むアジアへと移っていく。クルム伊達も、全米後は一旦帰国。その後ソウル、東京、北京、そして大阪と続く秋のアジアシリーズへと挑んでいく。

「アジアで結果を残すため、何をするべきか考えながらやっていきます。アメリカであまり試合ができなかった分、アジアでは多くの試合をやりたいし、良いテニスをしたいですね」

まだまだ暑さの残る日本の初秋を、クルム伊達がより暑くする。

【ダブルス結果】
クルム伊達/アランチャ・パラサントンハ 0-6 3-6 ルーシー・ハラデツカ/アンドレア・フラバーチコバ

取材・文:テニスナビ
写真:佐藤ひろし

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