ここぞという場面での勝負強さを発揮"クルム伊達のテニス"復活の兆し | 伊達公子 公式サイト

COLUMN

2012.10.16

ここぞという場面での勝負強さを発揮"クルム伊達のテニス"復活の兆し

リードされながらも相手のプレーを分析し、流れをつかむや一気に追い上げる――そのような"クルム伊達のテニス"復活の兆しを見せた、シングルスの対デラクア戦であった。

第1セットはサービスゲームキープに苦しんだが、ラリーを繋ぎながら相手のテニスを探っていく。デラクアの、サウスポー特有の球の回転に苦しみながらも、徐々にタイミングをつかみ、反撃の機をうかがっていたのがこのセットだったろう。

逆襲ののろしが上がったのは、第2セットの第4ゲーム。0-40の劣勢から追いつき、5度のデュースの後にゲームを死守。左腕から繰り出されるデラクアの強打に振られても、左右に走り、ときには左手を使いながら返球して、どこまでも必死にボールを追いかけた。

「何が何でも勝ちたい」、そんな執念がプレーからほとばしる。第2セットは3つのブレークを奪い、セットオール。逆転のシナリオは完成間近かに思われた。

それだけに悔やまれるのは、第3セットの最初の2ゲーム。ポイントの形はつくるものの、最後の一歩が詰め切れずに第1ゲームはブレークを許す。続く第2ゲームでは2度のブレークチャンスがあったものの、大切なポイントでまぐれ当たりとも思える相手のスーパーショットがライン際をとらえた。「チャレンジがもしあれば、使いたいと思った場面は何度かあった」そう苦笑いするほどに、際どいショットの応酬となった第3セットの立ち上がり。この失った2ゲームが、そのまま勝負の分かれ目となった。

■シングルス
1回戦 クルム伊達公子 3-6 6-3 4-6 ケーシー・デラクア

シングルスでは、あと一歩のところで勝利を手にすることが出来なかった。だが相手からセットを奪い、勝敗のかかった緊張感の中で一進一退の攻防を戦ったことが、ダブルスの好プレーにもつながったろう。さらには「とてもポジティブで、いつもハッピーオーラが出ている」と絶賛するヘザー・ワトソンの明るさも、クルム伊達に好影響を与えたようだ。ダブルスでのクルム伊達は笑顔が絶えず、心からテニスを楽しんでいるように見えた。

「ワトソンはサーブが良くストロークが安定しているので、私も前で動きやすい」ともクルム伊達は言う。脚力とストロークに長けたパートナーがフォローしてくれる安心感が、攻撃力や創造性を存分に発揮できた要因だろう。ダブルスの1回戦は、連携でも個々の能力でも上回ったクルム伊達/ワトソン組が、貫禄の勝利を奪った。

ダブルスが得意な相手と対戦した二回戦では、クルム伊達の勝負強さが光った。圧巻だったのは、第1セットタイブレークでの、相手のセットポイント。この場面でクルム伊達と青山は、ストレートで長い長い打ち合いを展開する。そのあまりの緊張感は、2人の前衛選手に動くことを許さないほど。「青山さんは、私が仕掛けるのを待っていた。だから私はしぶとく同じことを続け、相手のボールが浅くなったり、コースが甘くなるのだけを待っていた」

その打ち合いに、先に焦れたのは青山の方だ。甘くなった青山のドロップショットを、クルム伊達は待っていたとばかりに追いつき鋭く打ち返す。気持ちの込もったその一打を、青山は返すことが出来なかった。このポイントで勢いを得たクルム伊達たちが、逆転で第1セットを奪う取る。この時点で、勝負は決まったも同然だった。

今大会で初めてペアを組み、僅か2試合の実戦で抜群の連携も発揮しはじめたクルム伊達とワトソン。クルム伊達は自分とワトソンの共通点を「一度考えたことは、最後までやり遂げる点」だと言い、「メンタル面では似た所があるので、やりやすい」と評した。

そのクルム伊達が「次の相手は、今までのようにはいかない」と警戒したのが、ジェン・ジーとメディナガリゲスである。この2人は、それぞれ総合力が高くダブルスの経験も豊富。だが、この2人もペアを組むのは初めてであった。

「初のペアにはスキが出来る。それを作っていきたい」。クルム伊達は、試合前にそう展望を語っていた。

その"スキをつく"プレーの象徴が、第1セット5-3からのリターンゲームだろう。このゲームの最初のポイントで、ジェン・ジーはオーバーネットの判定を巡って猛抗議をする。結果、リプレイとなり再開された最初のポイント。クルム伊達は相手の心の真空地帯をつくように、強烈なリターンウィナーを奪った。すると続いてワトソンもリターンを叩きこむ。4ポイント連取で、第1セットを奪いとった。

第2セットは相手が取り、なだれ込んだ10ポイントマッチタイブレーク。序盤はクルム伊達が絶妙なハーフボレーを沈めるなどしてリードを広げ、追い上げられた後半では、ワトソンが積極的なポーチを決めて接戦を抜けだす。両者の思いがピタリと重なり、相乗効果を生んでの劇的な勝利だった。

決勝戦では、健闘およばず第1シードにストレート負けを喫した。ワトソンは、シングルスで3時間11分の大熱戦を戦った直後のダブルス。しかも相手は、2週間前の東レPPOでも優勝している絶好調ペアだ。クルム伊達たちは、あまりに厳しい状況にあった。それでも最初のマッチポイントは、クルム伊達のリターンウィナーでしのいでいる。今大会を通じて発揮した、ここぞという場面での勝負強さが光ったシーンである。

■ダブルス
1回戦 クルム伊達公子/ヘザー・ワトソン 6-3 6-2 ユージニー・ブシャール/アレクサ・グラッチ
準々決勝 クルム伊達公子/ヘザー・ワトソン 7-6 6-1 青山修子/ミーガン・モウルトンレビイ
準決勝 クルム伊達公子/ヘザー・ワトソン 6-3 4-6 10-8 アナベル・メディナガス/チェン・ジー
決勝 クルム伊達公子/ヘザー・ワトソン 1-6 4-6 ラケル・コップスジョーンズ/アビゲイル・スピアーズ

このHPオープンで、今季のWTAツアーは全て終えたクルム伊達。だが彼女の2012年シーズンは、まだ終らない。10月中盤から11月上旬にかけ、ITF大会及び今季から始まる"WTAチャレンジャー"に出場するからだ。

「どういう結果になるか分からないが、自分のテニスを取り戻すことができればと思う」

そう抱負を口にして、決勝翌日にはクルム伊達は、フランスに向け旅立っていった。


クルム伊達選手からのコメント

――地元関西での大会ということで、楽しみにしていることや、大会中に行った場所、起こった地元ならではの出来事などあれば教えて下さい

2012年最後のWTAツアー大会ということで自分自身に何か変わるきっかけを期待していました。地元関西と言うだけで気持ちの上でもリラックスできる場所でもあるから。シングルスはその奇跡は起きず......

でもダブルスでは決勝までいくことができ、3年連続で最終日まで残ることができたのはやはり何かパワーがあるのでしょう。

ダブルスはいいパートナーに恵まれ楽しくそして勝つ試合の中で、久々にいい感覚を呼び戻せることができたことが多かった。

(決勝は相手が強すぎたけど....)

――一週間で合計5試合戦い、ダブルスで3つの勝利を得たことの収穫を教えて頂けますか?

楽しみにしていたことは、短い時間ですが、なかなか会えない関西の友人に会えたり、試合を見に来てもらうこと。そして関西でしか食べれないものを食べに行くこと。

行った場所は特に変わったところはなし。テニスコートとホテルの行き来。そこにレストランが加わるのみ。大会前にいつも行く治療を、一度受けに行ったくらいです。テニスプレーヤーって意外に時間があるようでないんです。

記事:テニスナビ
写真:佐藤ひろし