並み居る難敵たちを退け決勝へ | 伊達公子 公式サイト

COLUMN

2012.11.13

並み居る難敵たちを退け決勝へ

追い込まれたときほど、驚異的な集中力と勝負強さを見せる――そのような、クルム伊達のアスリートの資質と魅力が、このシーズン終盤に来て発揮された。今年から発足した新カテゴリー"WTAチャレンジャー"のインド・オープンで準優勝。惜しくも頂点こそ逃したが、決勝に至るまでの足跡は力強く、決意と覚悟に満ちてもいる。

最初の大きな山場は、準々決勝の土居美咲戦だ。土居とは約1年前の対戦で勝っているが、現在の土居は自身初のトップ100入りを果たすなど、勢いに乗っている。日本人2番手にまでランキングを上げた土居は、地位に相応しい力を証明するためにも、並々ならぬ闘志で向かってきたはずだ。

そしてクルム伊達は、その上を行った。意気込みが硬さにつながったか、土居はサーブが安定しない。そのような土居の心理をつくかのように、クルム伊達は立ち上がりからリターンでプレッシャーをかけ、一気に流れを掌握した。3つのブレークポイントを全てものにするなど、勝機を逃さぬ戦術眼も光る。第1セットは6-1。完璧とも言える試合運びだった。

第2セットに入ると、後のなくなった土居の逆襲を許し、先にブレークを奪われる。だがここでも、安定感に欠く土居のサーブを叩いて3つのブレークに成功。終わってみれば第2セットも、6-4でクルム伊達。試合時間1時間16分の完勝だった。

最初の難関を快調に突破したクルム伊達を準決勝で待ち構えていたのは、宿敵とも言えるタマリネ・タナスガーン。2008年の"再チャレンジ"以降、両者は既に4回も顔をあわせている。しかもそのうち3つが決勝での対戦であり、クルム伊達は全て敗れているのだ。低いフラット系のショットを得意とし、早いテンポのラリーを好むタナスガーンは、クルム伊達のライジングを苦手としない。試合巧者でもある両者の対戦は、常に激しい体力の削り合いであり、過酷な精神戦にもなる。

この日も、例外ではなかった。第1セットはクルム伊達がブレーク合戦の末に取るものの、第2セットはタナスガーンが、5-5からブレークで抜けだし奪い返す。ここで、タナスガーンがバスルームブレークを取り精神面で揺さぶりをかけるのも、過去の対戦と同じ展開である。

第3セットは、立ち上がりでスパートをかけたクルム伊達が、早々にブレークに成功する。ファーストサーブの入りも良く、5-1と大きくリードを広げた。しかし、ここであっさり引かないのが、タナスガーンという選手だ。粘りに粘り、激しい追い上げを見せるタナスガーン。それでも最後はクルム伊達が、このセット4つ目のブレークをもぎ取り、同時に勝利もつかみとる。試合時間2時間28分。2連敗中だった35歳の難敵を振り切ったクルム伊達は、WTAカテゴリーの大会としては2010年HPオープン以来となる決勝進出を果たした。

ただやはり準決勝の激闘は、クルム伊達を身心ともに疲れさせていただろう。決勝の対戦相手は、18歳のエリナ・スビトリナ。2年前に全仏オープンジュニアを制している、女子テニス界期待の新星でもある。

スビトリナはパワーのある選手だが、スライスなども戦況により織り交ぜる試合巧者でもある。しかもスビトリナは、準決勝で元トップ10選手のペトコビッチを破るなど、勢いと大きな自信を得て決勝の舞台に立っていた。「キミコのプレーは今週中に見て、戦い方を理解していた」とも言うように、十分に戦略も練っていたようだ。ペトコビッチ戦から一転、パワーを抑えスローペースで攻めてくるスビトリナのプレーに、クルム伊達は最後まで自分のリズムをつかむことが出来なかった。

それでもクルム伊達は「今季は勝てていなかったので、シーズン終盤になり結果が出て嬉しい」と試合後にコメント。そして、こうも続けた。

「シーズン最後の2大会でもこの調子を維持したい」

ラストスパートを胸に期し、クルム伊達は2012年最後の戦いに向かう。

■シングルス
1回戦 クルム伊達 6-0 6-3 Rishika SUNKARA
2回戦 クルム伊達 6-4 4-6 6-2 Yi-Miao ZHOU
準々決勝 クルム伊達 6-1 6-4 土居美咲
準決勝 クルム伊達 6-4 5-7 6-4 タマリネ・タナスガーン
決勝  クルム伊達 2-6 3-6 エリナ・スビトリナ

今大会でクルム伊達は、奈良くるみとダブルスを組んで出場している。思えば、クルム伊達が37歳で現役復帰し最初に組んだパートナーが、当時16歳の奈良くるみ。「日本の期待の選手である奈良を引っ張って欲しい」という、関係者たちの思いもあってのことだった。

その期待に応えるように、奈良は順調に成長し2010年には100位に肉薄するが、以降はケガもあり、やや伸び悩みの時期も過ごしてきた。そこで今季は環境を変え、再び上昇気流をつかもうとしている。その最中での、クルム伊達とのダブルス再結成。結果は、初戦で快勝、準々決勝ではダブルス巧者にストレートで敗れたが、第1セットはタイブレークにもつれこむ接戦であった。

インドの地で、42歳のクルム伊達から21歳の奈良に伝えられたものは、必ずあったはずだ。

■ダブルス
1回戦 クルム伊達/奈良くるみ 6-2 6-1 Anushka BHARGAVA/Sofia SHAPATAVA
準々決勝 クルム伊達/奈良くるみ 6-7(6) 4-6 Eva BIRNEROVA/Andreja KLEPAC


クルム伊達選手からのコメント

――今大会では奈良くるみ選手とダブルスを組み、土居美咲選手とは対戦しました。この2選手に関し、同じコートに立ってどのように感じましたか?

ダブルスは初のインドということもあり、体調管理ができるかどうか不安だったこともあり日本人同士の方がやりやすいのではないかと考えました。

また、台湾大会でのカットオフもかなり低かったので、このインド大会もランキングがかなり低い、くるみちゃんとでも入れると読んでサインをしました。くるみちゃんとは、再チャレンジを始めた最初の岐阜での大会で一緒に組んで優勝したことがあったの、で数年空いているとはいえやりやすいのではないかと思いました。あとはドロー運がどうなるか? と思っていました。

1回戦は簡単に勝つことができましたが、くるみちゃんはダブルスをあまりやっていないせいか、久々の私とのダブルスでか、かなりの緊張感の中でプレーをしいたようです。

2回戦では、吹っ切ってくれることを願っていましたが......。2回戦もどこかくるみちゃんらしい思い切りの良さが出ないままだったのは残念でした。

私が受けた印象はダブルスをやっていない分、やることがシングルスのまま。ダブルスの動きやネットでの反応、俊敏さが少し足りない気がしました。ランキングが上がらないとなかなかダブルスをする機会が増えない現実はありますが、ダブルスで積極的なプレーを心掛けると、シングルスにも活きてくるようになるんじゃないかと思いました。

土居ちゃんとの一戦。前日に私はタフな3セットにダブルス。土居ちゃんはさっさと片付けてダブルスもなく休み時間はたっぷり。いざ試合が始まると体が動いたこと、出だしから私の考えていたことができたことで、土居ちゃんに戸惑いが出たのではないかと思います。きっと『今の自分であればパワーで押し切れ、ゲームを自分自身がコントロールできる』と思っていたでしょう。

しかし、それをさせない策が私には必要でした。そしてそれがしっかりと最初に封じ込めたことが大きかった。もう1つは土居ちゃんのファーストサーブの確率が悪かったことにも助けられました。

サウスポー特有の外に逃げるサーブが入って来ると、オープンスペースができやすいので主導権を握られてしまいます。セカンドセットで土居ちゃんのミスも減り、土居ちゃんらしいプレーも出始めていましたが、得意のフォアからの展開を作らせないことに徹しながらも、コースを混ぜてゲームメイクしました。

この試合では作戦とやること、それを最後までやりきれたことと、すべてがうまくいった試合になりました。

しかし、土居ちゃんのここ最近の成長ぶりは誰もが認めるところでしょう。ランキングでも戦いやすいポジションになってきた今、さらにジャンプアップできる大きなチャンスが訪れていいるのではないかと思います。そのためには今後パワーで上回る相手と、どう戦って行くかが大きな鍵になるのではないかと思います。

記事:テニスナビ