満面の笑みで2012年、最終戦を終える | 伊達公子 公式サイト

COLUMN

2012.12.04

満面の笑みで2012年、最終戦を終える

「決勝で負けるのはとても悔しい。こんな思いをするくらいなら、初戦で負けた方が良かったのではと思えるくらいです」

ダンロップ・ワールド・チャレンジ(豊田市開催)の決勝で敗れたとき、クルム伊達は冗談交じりにそう言って苦笑した。この時点で、インド・オープンに続く2大会連続の準優勝。「昔は、準決勝で弱く決勝では強かったのですが、最近は決勝で勝てませんね」という言葉にも、あと一歩が届かないもどかしさがにじむ。シーズン終盤に調子を上げてきたクルム伊達は、来季に向け自分を信じきる根拠を得るためにも、優勝という揺るぎない実績を渇望していた。そのラストチャンスの地が、ドバイだったのである。

シーズン最終戦となるドバイ大会では、多くの困難がクルム伊達の前に立ちはだかった。まずは、過酷なスケジュール。2大会連続決勝進出により、僅か14日間で10試合もこなしてきた。ドバイに向け旅立ったのは、豊田大会の決勝直後。対戦相手よりも先に、疲労や時差と戦わなくてはならなかった。

次に、豊田とドバイの環境面の激変がある。気温差はもちろんながら、インドアとアウトドア、カーペットとハードコートという会場の違いもプレーに甚大な影響をおよぼす。
 
それでも、クルム伊達は優勝した。それも、相当に厳しいドローを勝ち抜いてである。

初戦の相手からして、難敵だった。22歳のセバストワは、ケガなどでランキングこそ落としているが、2011年の全豪オープンでは4回戦に進出した若手のホープ。パンチ力のあるストロークと軽快なフットワークで、最高位36位まで達している。

3回戦で対戦したカロリーナ・プリスコワも、若く大型で潜在能力の高い実力者だ。かつての全豪ジュニアチャンピオンであり、双子の姉のクリスティーナとともに、テニス強国チェコの次代を担う若手として期待を集めている。長身から叩き下ろす高速サーブと、両サイドから打ち込む強烈なストロークで相手を圧する、パワー型の選手だ。

それら強敵のいずれをも、クルム伊達は引き出しの豊富さと、勝利を重ね取り戻した試合勘により退けてきた。特にプリスコワ戦は、相手に先にセットを奪われる苦しい展開。スライスで凌いでくる予想外の展開に戸惑ったが、相手の戦い方を分析し、試合の中で修正する適応力で第2セットを奪い返した。第3セットも、先にブレークされる心身ともに厳しい戦いを強いられるが、そこで彼女を支えたものは、鋼の精神力だったろう。「2012年最後の大会、今日、この瞬間に出せるものを出し切りたい」という執念で、ギリギリの戦いのなか勝利をもぎ取った。
 
準決勝でクルム伊達を悩ませたのは、砂漠のドバイでの、まさかの雨である。朝から降り始めた小雨のため、試合開始は遅れることに。再開が近いと知らされウォームアップを始めるも、開始直前になり再び雨で遅れることに。「ネガティブな感情は全て排除し、試合に集中することだけを考えていた」と、クルム伊達は地元メディアに語っている。クルム伊達はこの日のうちに試合を終えることができたが、もう1つの準決勝は雨天中断のため翌日に順延に。よってクルム伊達は、対戦相手を知らぬまま決戦の日を迎えることになった。

そうして迎えた、決勝戦。同日に終えた準決勝を勝ち上がったのは、カザフスタンのプティンツェワ。かつての女王マルチナ・ヒンギスをコーチに持つ、女子テニス界期待の17歳だ。ダブルヘッダーというアクシデントも、勢いに乗る17歳にとっては程よいウォームアップになったろう。立ち上がりからエンジン全開のプチンツェワは、最初のゲームをいきなりブレークする。だが続くゲームをクルム伊達が我慢強く奪い返すと、6ゲーム連取で第1セットは6-1で先取した。

第2セットは、逆の展開となる。先にクルム伊達がブレークし3-1とリードするが、連日の激闘を経てきた身体には、ゴールラインまで一気に走り抜けるエネルギーは残っていなかった。プチンツェワが追い上げ、3-6。試合は最終セットに突入する。

運命の最終セットで再び気持ちを奮い立たせたクルム伊達は、早々にブレークし、3-0とリード。この差を守ったまま、5-2と優勝まで1ゲームに迫った。しかし相手も土壇場で巻き返し、第9ゲームをブレーク。ブレーク数では互角となり、5-4で相手のサーブを迎えていた。

既に満身創痍でケイレンにも襲われていたクルム伊達は、ここで最後のネジを巻くべく、メディカルタイムアウトを取る。

そして再開後――長いラリーで懸命に走り、ケイレンの恐怖を打ち払うべく強打を打ち込みながら、クルム伊達は戦った。このゲームで奪ったブレーク......それは42歳のクルム伊達に、6カ月ぶりのITFトーナメント優勝をもたらすものであった。

今年も残すところ1カ月を切った12月1日。満面の笑みでトロフィーを掲げながら、クルム伊達の2012年は幕を下ろした。彼女はツアープレーヤーの中で、最も遅くまで公式戦のコートに立った選手である。同時に、同大会の最年長優勝者ともなったクルム伊達は、優勝という最高の結果で長く過酷なシーズンを締めくくった。

1回戦  クルム伊達 7-5 6-1 アナスターシャ・セバストワ
2回戦  クルム伊達 6-2 6-1 オクサナ・カラシニコバ
3回戦  クルム伊達 3-6 6-3 6-4 カロリーナ・プリスコワ
準決勝 クルム伊達 6-2 6-3 周 奕妙
決勝  クルム伊達 6-1 3-6 6-4 ユリア・プチンツェワ

記事:テニスナビ